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世界堂の上様

その日、世界堂に成型材料を買いにいった。友人に頼まれた買い物だ。領収書をもらっておいたほうが良いだろう。

世界堂とは画材屋だ。しかも有名店。なんといっても安さが売りだ。

安い店というのは、神経を使った経営をする。たとえば繁盛しているスーパーはいつも列が絶えない。客が多いにもかかわらず、最低限の店員しか使わないからだ。世界堂も例に漏れず、店の規模のわりには店員が少なかった。

友人から頼まれた商品はすぐに見つかったが、その日のレジは異常だった。大勢の客が長蛇の列をなして順番待ちをしている。何十人という客が、たった二人の店員の捌く2つのレジに並ぶ。今まで見たことの無い異様な光景だ。しかもどうやら私の並んだ列のほうが流れが悪い。何で?と思って前をみたら、店員の手際がめちゃくちゃ悪い。今日から仕事を始めた新人君のようだ。なにか訳もわからずおろおろしてる人にしか見えない。失敗だ。しかしいまさら並びなおしてもしかたない。耐えて待とう。

ようやく私の番になった。

「あ、これと、これ。それとこれもね」

「これとこれと、それにこれですね。ええと、これがいくらで…○○円になりますね」

「あー、それと、領収書もお願いします」

「領収書ですか? …(探す)…すみませーん、領収書、どこにあるんですか?(と先輩店員に聞く)…(きょろきょろしながらペンを探す)(領収書は2枚セットになっていて、厚紙を挟んで書くことを教わる)(金額を書き込む)」

「…(いらいらする私)…」

「ええと、お宛名のほうは、なんて書きましょうか?」

「宛名は「上」でいいよ。上様、で。」

店員はペンを持って領収書を前にして考え込んだ。不安げに顔を上げて私に言った。

「あのぉ、うえ、って、カタカナでもよろしいでしょうか?」

イヤそれ俺の名前じゃないし。


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