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ペットマニアック ラバーズ

私は、プレーリードッグが好きだし、そういう意味では「ペット好き」と自称してもいいのだけど、「ペット好き」という人種ではない。「ペット好き」と一般人の間には大きな隔たりがあって、所詮私は一般人側の人間でしかない。そういうことを深く自覚した、あの日のことを書いてみよう。まだ10年は経ってないけど5年は楽に経過しているから、時効だということにして。

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千葉から九州まで帰省がてら車で往復した時のこと。道々、名古屋や大阪で滅多に会えない友人にあったり気まぐれに寄り道したりしながらの道中でした。

帰路、とある都市で、やはり長らくご無沙汰している女性のことを思い出し、電話で話しているうちに会うことになりました。彼女とはプレーリードッグの情報交換を通じて知り合ったのでした。

彼女とプレーリードッグと、一緒に川原を散歩したあとで、一緒に食事でも、ということになり、とあるレストランで食事をしているときに、ちょっと躊躇ってから彼女は言いました。

「私、結婚するかも」

へぇ、いい話だね。モグモグ。で、相手はどんな人?何やってる人?

「堅い職業なのよ」

彼は法曹界で身を立てているらしい。そりゃすごい。それにしても、何処で知り合ったの?

「川原で、プレーリードッグと一緒に散歩してる時に、よく会うのよ。彼は大きな犬を飼っていて、お互いペットの散歩の時間が近くて」

なるほど。プレーリードッグは珍しいからね、ソレ何?とか声をかけられるわけだ。…しかし、彼女の顔色は優れない。何か不安なことでもあるの?問題でもあるの?と聞くと、ペットを巡って彼とはいろいろとあるらしい、ということだった。

「実はね、去年も暮れの頃に、みんなでスキーに行ったのよ。私と、彼と、彼の友人たち。当然私はプレーリードッグを連れていったわ。だって、私が面倒をみないと。家族には任せられないから」

しかし、プレーリードッグは臆病な草食獣である。異なる環境、見知らぬ人に囲まれれば、当然興奮する。飼い主にはそれがよく判るが、知らない人からみたら、それに気づかずカワイイ動物にしか見えず、不用意に近づいては大怪我をする、とか、遊び半分でふざけてカゴをあけて、走り回ったプレーリードッグが誰かを噛む、なんてことは、わりとありがちだ。案の定、そういう経過で、彼に噛み付いてしまったらしい。

プレーリードッグは、リスの仲間で、噛まれるとひどい大怪我になることも多い。シマリスなんかと同じです。歯は薄く鋭く長く、刃物を深く突きたてたような傷になります。4針5針の縫い傷なんて、珍しくもなんともないです。

血まみれになった彼は、プレーリードッグを振り払います。

「なんてことするの!」

彼女は彼に怒ります。プレーリードッグに悪意があったわけでもないのに、乱暴に振りはらわなくったっていいじゃない。彼は彼女に言いました。

「プレーリードッグを、殺せ」

と。私は同情しました。ひどいね、そりゃ。何も殺さなくったって。自分の犬が人を噛んだら、殺すわけ?って言ってやれば?

「言ったわよ。自分の犬が人を噛んだら、殺すのか、って。そしたら…」

殺すだろう、と、彼は言ったという。人を噛む動物は、すでにペットではないのだ、と。ペットは人を決して攻撃しないし、そうであってはならない、と。自分の犬が人に噛み付くなんてことは、まずありえないが、もしそうなれば、生きていてはいけないものだ、と。

実は彼は、今の犬を飼う前に、やっぱり犬を長いこと飼っていて、ある日誰かに噛み付いて怪我をさせてしまったらしく、泣きながら殺したことがあるのだという。

いくらなんでもそれは行きすぎだよ。ちょっとねぇ。で、どうなったの?

「彼の怪我よりプレーリードッグを気遣っていたら、彼は言ったのよ、自分とプレーリードッグと、どちらが大切なのか、って。当然…」

彼が言い終わるより早く即答したらしい。プレーリードッグに決まってるじゃない。アナタは私がいなくても生きていけるでしょう。この子たちは、私がいないと生きて行けないのよ?

即答ッすか。うーん。ま、そりゃそうかもしれないけど。間違いではないかもしれないけど。これから結婚しようかっていう相手に対してそこまでキッパリ言わなくっても。そういったペットにまつわるトラブルが、何度かあったらしいのです。なんと言って励ませばいいのか。私は言いました。結婚して子供が出来れば、また状況も変わってくるんじゃないの?と。家族ができれば、やっぱり子供が中心になってくるしね。いくらプレーリードッグを「うちの長男と次男ですぅ」ってノロケてたって、子供は同列にはならないしね。その言葉に、彼女は答えました。

「metroさん、知ってる?○○さんは子供が生まれる前に飼っていたプレーリードッグを長男、っていってて、自分の子供は次男、って呼んでいるのよ。××さんも、そう」

私はちょっとついていけないものを感じつつ、言葉に詰まりました。まぁとにかく、一ヶ月か2ヶ月か、お試し期間って感じで一緒に暮らしてみたら?それでダメそうだったら結婚しない。なんとかなりそうだったら結婚する、でもいいんじゃない?と。私に言えるのは、せめてそのくらいのことでした。彼女も、不安げに中途半端に頷きました。

彼は、寝るときにはそばに大きな犬がいるそうです。キミはどうするの?と聞けば、

「私だって、プレーリードッグと一緒に寝るわよ。だって彼だけなんて悔しいじゃない?」

厳格な彼と犬と彼女と犬より脳味噌のちっちゃいプレーリードッグと。うまくいくのだろうか。難しいよね。という思考と逆に、なんとかなるさきっと、と思ってもないことを言ってその話はおしまいになりました。

結局、あの二人は、上手くいったのか?もちろんそんなことは恐くて聞けません。でも、彼女のことを思い出すと、不思議と枕を並べる二人と二匹を想像してしまいます。


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