神話 > アメリカに行こう (5)

アメリカに行こう (5)

ヨセミテ

我々はサンフランシスコを出てヨセミテを目指した。当時の日記を引用しよう。

4月某日

ヨセミテに行く。前半フリーウェイが続く。道に迷うも無事到着。途中から車の下の液漏れが気になるが、エアコンの水だということで、安心。

途中、山道で疲れたので昼寝する。

説明しよう。サンフランシスコを出て平らなフリーウェイを走ってる間は何もなかったが、山道に入ってから車を止めると点々と液漏れがしてきた。最初は数メートルの点線だったのが、だんだん長く続くようになってくる。気になって触るとねっとりとして油のようだ。心配になった私はサービスステーション兼業のガソリンスタンドで頼んでみた。漏れてるようなんだが、見てくれないか、と。

「今日は暑いからな。エアコンつけてなかったか?」

「つけてた」

「じゃぁ心配ないよ。エアコンの水滴だよ」

そのセリフを聞いた瞬間、ああそうなんだ、と安心してしまい、あのねっとりした油の指ざわりのことはすっかり忘れてしまった。人間安心したい時に都合のいい言葉を聞くと、そっちを取り入れて都合の悪い断片は忘れてしまう。この偽りの安心によってヨセミテ滞在中は平穏な時間が過ぎていった。

能天気に大自然を堪能するばか者

次の目的地へ

何日かヨセミテ滞在後、次はどこへ行こうかと地図を見ながら話し合った。ラスベガスなんかいいんじゃない?いいねいいね、そうしよう、ということでルートを決めて出発した。液漏れは相変わらずで、路面に記す点線はやがて連続線になりつつあった。

内陸側にいってから南下したいところだが、4月ということでロッキー山脈を横切る道路の多くは通行止めになっている。で、ロッキー山脈南側回りでラスベガスに向かうことにした。一日で行く予定。行けなかったけど。ちなみにこんな道順。赤マルが一泊以上した滞在地。

何故こんなルートにしてしまったのか今となっては思い出せないが、往路と復路で同じ道を通りたくなかっただけかもしれない。

ラスベガス目指して出発した。車内には時々ビニールを焦がすような臭いが立ちこめる。古い車だから仕方ないか。途中一回スピード超過でパトカーに止められるものの、順調に進んでいるかに見えた。が。

イザベラレイク

ベイクスフィールドから内陸側に入ると、山間の道に分け入っていく。峠のピークに当たる場所で、ついに車に異変が起こった。アクセルを一定に踏んでまっすぐ走っているにもかかわらず、タコメーターが踊りだすのだ。エンジンが高回転と低回転を急速にいったりきたりする。

「グオォォォーン … プスプス … グオォォーン … プスプス…」

今まで誰も聞いたことないような異常なエンジン音にはびびった。

運の良いことに、そこは単なる山の中ではなく、すぐ近くに小さな町があった。イザベラレイク。湖が見える。

湖。ほかには何もなさそう

街に修理工場は無い。カーショップで見てもらうと、ミッションオイルがスッカラカンで焼け付いているという。とりあえずオイルを補充する。その場でAAA(アメリカでJAFに相当する組織)を呼んでもらう。思えば、車内の焦げ臭さも、これが原因だったんだろう。

AAAの人がいうには、ミッションは要修理。週明けにでも自走かできればレッカーで山を降り、大きな町で修理に出すのが良い。レッカーが必要ならそのときにまた呼んでくれ、とのことだ。電話でサンフランシスコの例の日本語の通じる修理工場のオーナーに事情を説明して相談に乗ってもらうと、ミッションの修理には下手をすると一ヶ月以上の時間と10万円相当以上の出費がありそうだという。冗談ではない。そんなことをしていれば旅行は台無しだ。車のために旅行をしてるのではない。旅行の手段として車があるのだ。ではどうするか。車を捨てるというのも一つの選択肢だ。が、我々が選んだのは「気にせず続行」だ。オイルが漏れているなら漏れる以上に補充すればよい(注:良い子は真似をしないように)。ミッションオイルを大量に購入し、出発前の油量チェックは欠かさないようにした。

そういうわけで時間もとられてしまったので、ラスベガスには遠く山中の湖のほとりの町で一泊することになった。

(つづく)


index | 前へ | 次へ