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アメリカに行こう (3)

エンジン

整備工場で見てもらうと、エンジンが5,6気筒あるうちのいくつかが死にいくつかが瀕死、現状1,2気筒だけで動いているようだ。これからのプランの相談をしたところ、こんな車でアメリカ横断なんて危険すぎるしそれ以前の問題だ、というアドバイスを受ける。とても乗れない、返せればそれが一番なんだが、契約内容を見ると売り捨てになってて買い手は文句言えないことになってるから、応じてもらえないかも、でも一応店に持っていって掛け合うだけ掛け合ってみれば、と勧められる。暗澹たる気分に陥る。早速例の中古車屋を目指して車を走らせると、メインストリートの真ん中でエンストしてなかなかエンジンがかからなくなるしますます調子が悪くなる。最悪だ。

この交差点を渡れば中古車屋だ、という残り15mほどの地点で、ついに車は動かなくなる。セルを何度回してもエンジンは掛からない。終わった。私と友人Aと、見ず知らずの通行人で押して交差点を横切った。

私が免許を取って初めて買った車はこうして一日で動かなくなった。シボレーの赤い車。細部については、よく覚えてない。

で、どんな車が?

件の中古車屋で返品の交渉を行う。返品はできないが他の車に変更なら認める、しかし現車より高額なら差額を払え、という。泥沼な予感がしつつ応じるほかなかった。

「どんな車がいいかい?」

メキシコ系の店主のオヤジが聞く。

「とにかくまずエンジンのシッカリした車。あと…そうだね、オートマがいいな(エンストで痛い目にあったからね)」

それならこれがオススメだよと見せた車は白いフォルクスワーゲンだ。これなら売るときも売りやすいからいいだろう、と言う。見た目は好きだがさてどんな状態なんだか。本当にエンジンは大丈夫なんだろうね?とエンジンルームを見せてもらったところ、見た目や音、振動からは問題なさそうに思える。まずは少し乗せてもらうことにする。

中古車屋のあるブロックをぐるりと回ることにして、店を出た。エンジンを掛けて静かに走りだす。ワーゲンってのは絵になるね。この丸い車でアメリカを旅することを思い浮かべると悪くないな、という気になってくる。

交差点の信号が赤だ。静かにブレーキを踏むが一向にブレーキが効いた気配がない。強く踏む。少し減速したか。ゆっくり走ってるというのに効きが悪すぎる。あぶねぇフルブレーキングだ床まで踏み込め!車はジンワリと減速しながら横断歩道の真ん中まで進んで止まった。ブレーキが全く効かないよ。こんなんじゃだめだよ。

「どうだったいい車だろ?」

いや全然よくないよブレーキが全く効かないよアブないよ危うく人を轢くところだったよと猛然と文句を言った。ブレーキは修理するから、とオヤジは言ったがどうにも納得できない。この車は要らないから、他にないのか?と聞いた。

「じゃ、どんな車がいいんだい?」

「とにかく、 エ・ン・ジ・ン・が・しっかりしてて、ブ・レ・エ・キ・が・シッカリした車!」

そして出てきた車が古いフォードマスタング。エンジンルームを開けてメカニックの人に不明なところは細かく質問してみる。乗ってみてもエンジンの掛かりもいいしブレーキもきちんと効く。エンジンさえしっかりしてれば車なんてそうそう問題ないはずだ。ブレーキも効く。ブレーキは単純な構造だし、乗ってて突然問題が起きることもないだろう。そうしてこの赤いマスタングに決めた。

燃費は悪いがガソリンは安い。けど距離はマイルでガソリンはガロンなんでいいのか悪いのか良く分からん

確かにエンジンもブレーキもしっかりした車だったが、ミッションに重大な問題があることに気づくのは、数日以上を経過してからになる。

(つづく)


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