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アリウル君

雑居ビル

「…でさ、聞いてよ。古い話になっちゃうんだけどさ、まだジャンプでドラゴンボールとか北斗の拳とか連載してた頃なんだけど、その頃俺、雑居ビルの夜の宿直のバイトをやってたんだよね。暇なバイトでさ。地階が居酒屋になっててさ…

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雑居ビルの地階の居酒屋の下働きをしていたAくんは、体格もデカクてパンチパーマをかけていて、何度か調理師の試験を受けたものの学科で落ちているとのことだった。後片付けを任された日は、一人なのをいいことに店内の音楽のボリュームをかなり上げて酒を飲みながら皿を洗ってたようだ。

宿直の私とはなんとなく親しくなっていった。彼はたまに料理を作っては持ってきてくれたりもして、そんな日は宿直室でダベッていった。

漫画

「…で、その日さ、Aくんが宿直室に来てさ、ダベってたんだよ。そしたら机の上に置いてあった漫画の本を見つけてさ。たまたま「アクション」を買ってたんだよね…

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「週刊漫画アクション」を見つけたAくんは興味なさそうにぱらぱらとめくった。
漫画以外に字も多いから、暇つぶしにはちょうどいいんですよ、と言うと、ふうん、と気のない返事をくれた。話を繋ごうとAさんに漫画とか読まないのかと聞いた。

「ん、読むよ」

「どういうの読むんスか?」

「ジャンプとか」

「あ、ジャンプ。面白いっスよね。ドラゴンボールとか。話がよく出来てる」

と言うとAくんはふん、と鼻で笑うようにしてそういうのは読まないと言った。有り得ないじゃない。ああいう話は。空飛んだり雲に乗ったりしてさ。と言う。じゃぁどういうのを読むのかと聞き返すと

「男塾だね。あれはあり得るからね」

いや有り得ないでしょ。とは思ったけど言わなかった。以後、Aくんは私の中で別名「アリウル君」になった。

私は「格闘技信仰(アリウル傾向)」って名づけてるけど、人間鍛えれば、度を越えて超人的な能力を発揮できる、と信じてる人がびっくりするくらいの割でいる。このアリウル濃度の濃い格闘技物語として最右翼にして超強力な漫画と言えば現在もチャンピオンに連載中の「バキ」。これはオススメ。鉄の扉も捻じ曲げ石をパンチで削ってつるつるの玉にする。数ページ読んだだけでもクラクラするくらい紙面からアリウル熱が立ち上ってくる。きっと本気で読んでる人も多いことだろう。

で、数例観察したところでは、このアリウル傾向は実際に格闘技経験は無くて見るのは好きって人に多く見かける。プロレス好きにも多いねこのタイプ。幻想を持って観るほうが楽しいけど無理なものは無理だよ。

至る処

「…笑っちゃうよね。いくらなんでも男塾はないよね。でも結構いるんだよそういう人。刀を指2本で受け止めて折ったり鉄骨の電柱を素手で折れるなんて、信じてる人が。」

「わはははは。でもなmetro。俺の知り合いに空手の先生のKさんってのが居てさ、その人すごいんだぜ。あの人なら鉄骨の電柱ならあるいは…」

「…」

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最近、「有り得ない」という言い方が流行ってるけど、そんなフレーズを聞くとふとアリウルくんの事を思い出す。調理師の免状は取れたんだろうか。


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