神話 > 有名人見た自慢チャンピオン

有名人見た自慢チャンピオン

ナマで見る

芸能人、タレント、歌手といった有名人をナマで見た時は、それだけで感動モノだ。私のような地方出身者であればなおさらだろう。ライブやコンサートに行ってTVや雑誌でしか見たことのなかったあの人を、間近で見た感想が「思ったよりも背がちっちゃくてさ」という、人に話してもフーンと相槌をうってもらえればマシなくらい他愛もないものでも、本人にとっては貴重な体験だ。自分にとっての伝説であり、神話として残る物語になるかもしれない。そんな話の一つや二つ、皆もっているのではないだろうか。

しかも、舞台と観客席という予定調和的出会いではなく、偶然や、また別の関係であると、さらに話は広がる。代々木のスーパーですれ違った、枯れた傘を持った黒コートの死神博士、いや天本英世を見たとき。あるいは、たまにコロッケを買う角の肉屋のバアサンを、毒蝮三太夫が失敬なツッコミで弄ってるのを発見したとき。見たというだけで、話のタネになる。

有名人見たバナシというのは案外難しくて、つまらない自慢と思われたり下世話な話に終わりがちで、最近はすることもないが、誰かが口火を切れば案外盛り上がる話題でもある。そんな「芸能人を見た話」で過去最強だった彼女のことは忘れられない。といっても、今からすると古い話で恐縮なんだが…

遠く離れて

話は遡って10年くらい前。私はとある事情により合宿免許を取りに行っていた。

岩手南端の駅を降りると、囚人護送車のような迎えの車がやってきた。冷たい車内に乗り込んだのは私と、鼻ピアスの若造の二人きりで、会話もあまりなく、人も車もさらに少ない山奥へと進んでいった。

刑務所の飯はマズイというが、その年は誰もがまずい飯を食っていた。もちろん我々の利用する宿も、タイ米か、でなければ美味くもない外米だった。

我々のほかにも前後して、何人か首都圏から合宿にやってきた。宿も同じで、同性同士は相部屋ということもあって打ち解けるのも早い。面子も多彩だ。私と鼻ピアスの小僧のほかには、私より2,3歳年上の引越し会社勤務の子持ちパパ、色白美人でバンドの追っかけをしている短大生とその友人、そんな面子でくだらない話で盛り上がっていた。

TVをみながら鼻ピが「あ、この俳優A、この前○○で見たよ」と切り出したところで、芸能人見た話に話題がシフトしていった。負けず嫌いで自己主張の強い面子だったせいか、自慢大会の様相になっていた。

私「で、友達と飲み屋に行くと、ソイツが言うのよ。あそこで飲んでるのはナントカって言う声優で、北斗の拳のケンシロウの声をやってる人だって。でさ、店の人呼んで、ビール一本我々からということで差し上げて欲しい、って言ったのさ。で、『あの人に渡す時、ケンシロウさんへどうぞ、って言ってください』って頼んでさ。

そしたら、渡して説明してるときにこっちと目があってさ。ビールを上にかざしながら、『アタタタァ!』って例の声で言ってくれてさ。」

私はこのへんが限界だ。見た、ってだけならまだあるが、もう一つ踏み込んだ話となると当時はこのくらいで打ち止めだった。

引越しパパ「俺さぁ、新宿でバーテンやっててさ、吉川光司が来てさ、あ、って顔すんのさ。覚えてくれてたんだね。一年くらいまえに長崎で同じような仕事してるときに来て、新宿は2度目。なんか「マズイとこ見られたな」みたいな顔してたよ。」

引越しパパ「昔ダンスやっててさ、バブルガムブラザースに可愛がられてたあいつらの後輩と一緒にやっててさ、あいつらって実は結構…」

職歴と経験から、この勝負引越しパパの独壇場、ネタは尽きない。一人勝ちかと思われたその時、彼女が全てをひっくり返した。

追っかけ短大生「ねーねー、聞いて聞いて。私ね、X−JAPANのTOSHIと寝たことあるよぉ。」

会話、終了。


index