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赤い花

上には上が

ある夜友人宅で数人集まってタバコを吸いながらくだらない話に花を咲かせていた時のことだ。たまたま話題が貧乏生活ネタになり、”要町の怪人”Zさんの話題や、部屋にキノコの生えた話で盛り上がっていた。どうも貧乏とルーズな生活はセットで展開されることが多い。そんな中で、それまで聞き手に回ることの多かったAさんが口を開いた。

「いや、もっと凄いヤツを知ってるよ。Xさんのことなんだが…」

生えるもの

そもそもXさんの住む部屋が凄い。四畳半一間の畳張りは、高原の牧場のように起伏に富んでいて、どこにビー球を置いてもすぐに転がりはじめる。そんな部屋だからふすまや扉は渋いわりに隙間風が入ってくる。

貧乏ルーズ生活というと、キノコを生やした話というのが定番で珍しくもないが、Xさんの場合は開放的な家屋のためか、部屋に直接キノコの類が生えてくることはなかった。いやあったのかもしれない。そんなことは問題ではない。キノコどころか、彼の部屋の畳からは普通の草が生えていたのだ。田舎の家の屋根や道路に生えるようなぺんぺん草や普通の雑草が伸びているのだ。

彼はまた、何かを放置したまま数日家を空けることがしばしばあった。冷蔵庫をわずかに開けたまま数日後家に戻ると、各種食料が腐って液化して冷蔵庫から流れ出し異様な臭いが部屋に充満し、なかなか消えなかったという。

同様に、炊飯器で米を炊きっぱなしにして数日間家を空けていたときの話だ。炊飯器の蓋は実は微妙に閉じきってなく、ほんの少しだけ開いていたようだ。それが再現不能なまでに絶妙な湿度と温度を達成したのだろう。

蓋を開けると、そこに炊きたてのご飯は見えない。お花畑のように、緑、オレンジ、赤、黄色に青と色とりどりのカビが、手入れの行き届いた芝のように敷き詰まっているのだ。炊き上がった米の上にまっ平らに生えている。まっ平らな中から一本だけ、中央から白い茎がひょろりと力なく伸びていて、先端には真っ赤な花がポンと咲いていたという。


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