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近くて遠きは

ある晩。家に帰る電車にて。

その日の私は体調が若干悪く、普通の場所なら問題ないんですが濁った空気の溜まった場所ではひどく咳き込んでしまうという状態でした。

電車ではすぐに座れたものの、中の空気は悪く咳がなかなか止まらず。申し訳ないけど、こればっかりは止めようがなくワザとでもないので勘弁してくださいね皆さん。

私の隣の男は眉根を寄せて目を瞑って、寝てるのか寝てないのか不明。逆隣の若い女性はしきりにケータイのボタンを押していたり。まぁ電車では良く見る風景。誰に出してるんでしょうかね。彼氏でしょうか。遠くて近きは男女の仲。いい時代になったものですね。

だんだんと私も眠くなりボンヤリとしてきて、ぼーっとしていると、なんとなく横を見ちゃってたんですね。覗き見るつもりはなかったんだけど、隣の彼女の携帯の画面がすっと目に入ってしまった。そこには

「隣のオッサンがしょっちゅう咳をしてて超ウゼェ」

みたいなことが書かれてて。ああああすみません。なんて直接謝るわけにもいかず。

彼女は私に一瞥をくれるでもなく不快感を表明するでもなく一心不乱にそういう内容をメールに打ち込んでいたわけで。なんていうか。ものすごく近いのにものすごく遠い、距離というのを感じてしまいました。


旅行帰りの飛行機から自宅まで一時間余りの長距離バスに。私たち家族は最後尾に。付近には疲れた同じく旅行帰りの人がぽつぽつ。最後尾の列は我々家族の他は、空席一つを挟んでご婦人が座っておられて。

ご婦人はしばらく携帯をカチャカチャ弄っているようで、何を書いているんでしょうか、帰宅時間について家族と連絡を取っているのかもしれません。やがて彼女は携帯を打つのを終え、目を閉じ休む体勢に移行。長女と次女は元気が余っているのですが妻も私も少し疲れています。「今回はどうだったね」「あそこであんなことを娘が言ったのが面白かったね」という旅の感想を少し交わしたりしました。そういえば次女、昼はまた桃をたくさん食べて大丈夫かと心配だったけど、車でも飛行機でも帰りは吐いたりせずになんとかなったね良かったね、みたいなことを言った直後。次女大量に嘔吐。親である私らはティッシュやハンドタオルやありあわせのビニール袋、おみやげ用に貰ったポリ袋の余分にあるものを使って拭いたり袋に詰めたり着替えさせたりでもう大変に。娘も「ごめんね」みたいなことを言ってますが「いいんだよ悪くないよ仕方ないから」と言いたくてもそうも言えない。

申し訳なさに肩身が狭い気がするんですが、それでもどうしようもなく酸っぱい臭いが広がります。気がつくと、空席を一つ挟んだ隣のご婦人がハンカチを口にあてつつ携帯をカチャカチャ。知りたくない。無性に知りたくない。何を打ち込んでいるかを想像したくもない。そんな近くて遠い、空席一つ挟んだ距離。